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第14回 鈴木一誌デザイン 様

2004.09.13

筑紫明朝の魅力

装幀にとどまらず本文を含めた書物全体のデザインを手がけるブックデザイナー、鈴木一誌氏。戸田ツトム氏と共に責任編集をつとめる『季刊 d/SIGN』をはじめ、数々の雑誌や書籍で「筑紫明朝」「筑紫見出ミン」を意欲的に使用していただいています。ブックデザインに書体の持つ特性を鋭く読みとり、巧みな組み版レイアウトを展開させる……。鈴木氏から見た筑紫明朝の魅力について、深く掘り下げて語っていただきました。

デジタルフォントの第三世代明朝……目にやわらかい。

今はデジタルフォントの第三世代と言える。第一世代がリュウミン、第二世代がヒラギノあたり、第三世代が筑紫明朝、何で第三世代かというと目にやわらかい。やわらかさがどこから出てくるかというと、これはユーザー側からの推測ですが、写植のときは文字盤を光で印画して現像してという工程で「にじみ」と「ぼけ」があったわけですが、デジタルフォントだとなくなりつつある。第一世代のときはまだ印画紙での出力が圧倒的に多かったと思うんですけど、それも時代と共に減って次にフィルム出力になり、今ではCTP出力です。データの再現性が一対一対応になってきた。途中で「にじみ」とか「ぼけ」とか「かすれ」とか、不確定要素が全くなくなってきた。

第三世代の明朝が要請されている意義

デジタルカメラの解像度が上がってきているように、出力側の解像度も上がってきている。昔だったら印画紙出力が1200dpiで(電算写植の世界は今でも 1200dpiですが)、それが2400になり3600になると、途中に介在するプロセスがなくなって、しかも解像度が上がってくるとフォントの設計そのままが読者の目に触れるようになってきている。 

平成明朝などに代表されると言ってもいいと思うんですけど、第一世代のアンカーポイント節約気味のフォントは、極めて目にきつくなってきている。正直なところ、第二世代の明朝もちょっときつい感じになってきている。そこで第三世代の明朝が今、要請されていると思う。写植の文字や活字が本来持っていた、刷られたときの「にじみ」とか「ぼけ」を書体設計に取り入れた気配がある。見る側からでも、少なくともこれだけのことは言える。 

文字ってのは、実在するのではなくて、見られたときにその人の心にある文字に共鳴したカタチとして存在する。デジタルフォントが人間の心理に近づいてきているのが、第三世代だろうと思うんですね。それと同時にこういうことが言えると思うんですが、最近写研の電算写植で作られた本を見ていると、えらくぼけて見える。世の中の解像度が上がってきた、安定してきたことによって、写植の技術基盤の「にじみ」が逆にばれてきているような感じがします。そういう意味ではきびしい時代になっている。解像度も永遠に上がるわけではなくて、2400くらいで安定するのではないでしょうかね。2400でものすごくコストパフォーマンスが高い出力をするという方向になっているのではないかな。例えばフェアドット製版というFMスクリーニングをベースにした、規則的なグリット状の網点ではなくて、デジタル砂目、今までの線数に換算すると600線相当なんだけど、2400dpiで安定的に出るらしいですね。普通だったら今まで175線、3600で出せと教科書ではそう書いてあったのが、600線相当が2400で完全に確保できる時代になってきている。いつまでも解像度戦争があるわけではないけど、ある解像度のコストパフォーマンスが安定したCTPになってくると、デジタルフォントの設計そのものがシビアに出てきてしまう。

筑紫明朝の使用感

読みやすい──横組み──「にじみ」の魅力──プロポーショナル組 

ということで、筑紫明朝は使ってみた感じがすごくやわらかくて読みやすい。それから横組みにもいいんじゃないかという気がする。なぜかというと、今までいろんな人達が横組み専用書体を考えるときに、新聞書体は縦組みで平たいですよね、だから横組みには縦長の書体という常識のもとに、挑戦してきたんだろうが、筑紫明朝が横組みが使いやすいのはなぜかを見ると、逆転の発想なんですかね、平べったい感じの方が横組みがきれいなんじゃないかな、横への連続性が強いんじゃないかと、逆算として出てきた感じがしますね。 

あとは「にじみ」の魅力っていうことと関係すると思うんですけど、「にじみ」が魅力的だってことは、文字一文字づつの周辺に言霊(ことだま)っていうかアウラみたいのがあるんじゃないですか。つまり漢数字の「一(いち)」はある限界を超えて詰めると図形になってしまう。ところがゴシックの漢数字の「一」はどこまでだったら字でどこまでだったら図形かってわからないですよね。タイトルで漢数字のゴシックを点付きギリギリで置くと、文字に見えなくなる。文字として認識させるには、全角でスポンと置いたんでは間が抜けるので、ちょっと上にあげて上に少し隙間がないとダメ。文字っていうのは周囲の隙間と共に文字なんですね。筑紫明朝のある種の「にじみ」の魅力っていうのが文字の周囲のアウラとうまく合って、どういうことが起きたのかというと、たぶん本文のプロポーショナル組みがきれいなんだと思うんです。行長がそんなに長くなくて、かつ和英の文字列が出てくる、あるいはカギ括弧類の乱発、ものすごくテキストの構成が深い場合、カギ括弧を多種類、使いまくるわけですよね。そうすると全角で一行を制御するというのはもう無理になってきている。確かに活字の全角べた組み組版の美学というのがあるにしても、プロポーショナル組みを積極的にやらなければならないのではないかという、片方では組版側の要請があるときに、体感的には筑紫明朝のプロポーショナル組みは極めて読みやすい気がしますね。やわらかさ同士がつながって行を形成していく雰囲気があります。

筑紫明朝と筑紫見出ミンは最強の組み合わせ

筑紫明朝だけだとちょっと片肺飛行だったのが、筑紫見出ミンがくっつくことでかなり最強のコンビになったと思いますね。写研でいうとMM-OKLにSHM があったようなバランス、要するに2つあれば全部できちゃうようなもんでね。筑紫明朝と筑紫見出ミンが最強の組み合わせだということは、逆算的に何を言っているかというと、ウエイトを1番ずつ増やしていくファミリーの考え方がアウトだということでしょう。イカルスなどのソフトでW1、W2、W3と刻んでファミリー化していくという考えがダメなんじゃないかって、ある意味ね。筑紫見出ミンはA、Bってのがあるにしても単独書体ですので、単独書体の時代が来たのかなって気がします。ファミリーでないというのはかなり大きかったんじゃないでしょうかね。考え方の発想としては。 

筑紫は文字面が大きい、ボディいっぱいって気がするけど。同じポイントで筑紫見出ミンと筑紫明朝を組むと見出ミンが小さく見える。太い分、文字の骨格線が中に入ってしまう。アナウンスが必要かもしれない。同じ大きさに見せるなら見出ミンを少し大きく使わないと同じ大きさに見えないとかね。あとは筑紫見出ミンは使用する時、若干寄り引きの調整が必要な感じがします。本の書名などに使うには、本来そのくらい一字ずつデザイナーが管理すべきなので、構わないですよ。寄せたり上下の文字列の組み合わせで目の錯覚が起きるから、上にあがって見えたり左に寄って見えたりするのは絶対に必要です。細いところと太いところの差があれだけあるとしょうがないのでしょう。

筑紫明朝はCTP時代の明朝

筑紫明朝はCTP時代の明朝と、言えるんじゃないですかね。比較的に横画がしっかりしているし、目にもやわらかいし。ユーザーとして希望しておきたいのが、CTPのタイプによってだいぶ文字の見え方、太さが違うんですよね。樹脂版のCTPとかネガから焼くCTPとかいろんなタイプの組み合わせで、文字の太さがどのように確保されるかっていうのは、全く未知数。バラバラの状態で全国展開している。以前明朝体で、ウエイトMを使用したにもかかわらずLにしか見えないんですよ。あんなに細いんだったらウエイト1つ上げときゃ良かった……、なんて思っても後の祭りなんですよ。それも少しメーカーとして情報をくれるといいかなと思うんですけどね。CTPとの相性でどうするだとか。CTPは今までと違って刷版がないから焼きの調整ができませんから、せめてインクの盛り具合くらいしか打つ手がない。カタログにもありますね。筑紫明朝-LBは、細くなる傾向が刷版にある時はいいかもしれない。もっと宣伝してもいいんじゃないの。

フォントワークスはメーカーらしいメーカー

フォントワークスは今のまま暴れん坊でいてください。多数決取って決めてない感じがしますね。設計者が自分の感性を頼りに作ってるんじゃないかって感じがする。単独者による書体ですね。他は会議でフォントを作っているのが多い。フォントづくりとして、字游工房に比べるとはるかにやくざっぽい、暴れん坊っぽい、九州っぽい。私は任侠映画のファンなので、「やくざ」とか「九州」とか言ってもフィクショナルな美学として言っているんですけどね。結構両者は同じところを目指していると思うんだけど、仕上がりが全然違ってきてる。字游工房はうまくまとまってしまうところがあって、フォントワークスははじけ気味。だけどそれがうまくいってるんじゃないでしょうか、筑紫見出ミンなんてのは。あれだけ思い切ってやってるのはなかなかないと思う。今、流れとしては金属活字の復刻ですよね。フォントワークスの場合は明らかに新作ですね。かつ昔のテイストを現代的によみがえらせている。昔の影を追ってたんじゃ歩留まりがあって7 掛けか8掛けにしかいかないから、フォントワークスくらいはじけてるとかなり時代の要求してるものにバチッとあたるっていうことが言えるんじゃないですかね。フォントワークスはメーカーらしいメーカーだと思う。今の調子でいいんじゃないかな。

<編集後記>

鈴木氏のオフィスは閑静な住宅街で独特の雰囲気を醸し出している銀色のドーム型建物。外観もさることながら、内壁一面の本棚に所狭しと並べられた本の多さには圧倒させられました。ブックデザイナー視点での、書体のデザイン、フォントのあり方、情報提供のあり方等、様々な事柄をご鞭撻いただき、フォントメーカーとしてお客様と共に発展しなければならない事を感じました。 「筑紫シリーズ」のみにとどまらず、デザイナーの方々のご意見を参考にしながら、今後もLETS、新書体の更なる開発・普及につとめる所存です。

<プロフィール>
1950年東京生まれ。ブックデザイナー。
東京造形大学在学中より杉浦康平氏に師事。 1985年独立。ブックデザインを仕事の中心にして現在に至る。
装幀とともに本文デザインに力を入れ、レイアウト・フォーマットの重要性を広く知らせる一環として『知恵蔵』裁判を提起。
1996年12月「ページネーション・マニュアル」を発表した。
著書に「画面の誕生」(みすず書房)「ページと力」(青土社)など。 デザインの主な仕事に「昭和 二万日の全記録」(講談社)、「Japan An Illustrated Encyclopedia 英文日本大辞典」、「シリーズ20世紀の記憶」(毎日新聞社)、「Japan Almanac」(朝日新聞社)「大辞泉」(小学館)ほか。

企業情報

社名 鈴木一誌デザイン
本社所在地 東京都新宿区筑土八幡町6-9
TEL 03-3235-4785
設立 1986年
その他 作品集
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