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第29回 有限会社マルプデザイン 様

2013.07.08
今回は、年間400冊以上の書籍デザインを手がけるマルプデザインの代表の清水さんと、ともに働いている佐野さんに、書体選定の方法や使用感についてお話しいただきました。 
有限会社マルプデザインは、主に書籍のデザインを行っている会社です。 

「わたしたちだからこそできるものを提供していきたい」という理念のもと、 オフィス内にギャラリーを併設し、また外部のギャラリーからの依頼で展示を企画・プロデュース、教育機関などからの依頼でデザインやイラストレーションに関わる方に向けた講演やワークショップなどにも力を入れられています。 

筑紫丸ゴシックを使ってみたかった!

街なかや書籍などでよく見かける『あの丸ゴシックを使ってみたい』と思ったのが「LETS」と出会ったきっかけでした。そのころ手がけていた本文レイアウトで、見出し部分にスーラのようなかわいらしい[丸ゴシック体]をあてて進めていたものがあったんです。仏の教えを現代に活かす若者向けの本だったので、少しかわいらしすぎるかなと違和感を持っていました。 それで「LETS」の【筑紫丸ゴシック】をあてたらイメージがぴったりなんじゃないかと思ったのです。(佐野さん)

【筑紫丸ゴシック】のようなデジタル書体は、ほかのフォントベンダーからも出ていなかったので、書籍だけでなく、いろいろなところで使われているのが目に留まって、気になっていたんです。そんなときに、書体の購入を検討するタイミングがあったので、候補として挙げたんです。佐野も気になっていた書体だったので「じゃあ、早速導入しよう!」ということになりました。(清水さん) 

そうなんです。「LETS」の契約をして、早速気になっていた見出し部分を【筑紫A丸ゴシック】に変えてみたら、違和感が消えて、描いていたイメージにぐっと近づきました。[丸ゴシック体]から出るやわらかい雰囲気だけでなく、【筑紫A丸ゴシック】の知的で落ち着いたフォルムが、若い人向けの仏の教えのイメージにぴったり合いました。

最初はこの【筑紫A丸ゴシック】を使いたくて「LETS」のライセンスを入れたのですが、今ではどの書体にもかなりの頻度で活躍してもらっています。本文の作成は私、装幀は清水が主に行っているのですが、それぞれにあったウエイトやデザインが幅広く用意されているため、使い勝手が非常に良いです。(佐野さん)

伝える人(作者)と受け止める人(読者)のあいだのかけ橋に

私は、依頼があるとまず原稿の内容を読んで、それから本文を組んでいきます。書体は、原稿から伝わってくる“声”にあったものを選ぶようにしています。どんな耳ざわりにしたいのか。アナウンサーのような大人っぽくて優しい女性の声なのか、教授のような知的で信頼性のある男性の声なのか? 字間や行間、紙面にどのように文字を入れるかなど、レイアウトからもそれが伝わるように努めています。 

伝える人(作者)と受け止める人(読者)をつなぐ橋になれたらうれしいです。(佐野さん)

書籍の内容に沿った“声”を表現したい

僕も、紙面の印象は、読む人のなかで無意識に音声化されていると思うんです。イラストや文字組みからどういった声が聴こえるのか、またはどう聴かせたいのか? 紙面が伝えようとしている声に耳を傾けることが、装幀する上で大切なポイントになります。 佐野がデザインした本文組みや、その書籍の内容から、どういったデザインだったらこの本の内容を表現できるか? 読み手に興味をもたせることができるか? ということを考えながら進めていきます。

以前、80年代〜90年代のアイドルたちの現在を取材した書籍の案件があり、書名に使う書体選びで悩みました。特に悩んだのがウエイトでした。細いウエイトだと神経質な印象になり、かといって太い書体だと、繊細さに欠けるんです。傷つきながらも前向きに生きている元アイドルたちの強さ、著者が伝えようとしている彼女らのリアルとは?を考えて一番しっくりきたのが【筑紫明朝】のウエイトBだったんです。 同じ書体のファミリーでも聴こえてくる声はそれぞれに違います。この時は【筑紫明朝】のウエイトBから聴こえる声がしっくりきたんです。 

装幀で使う紙をカバーや扉、本文と選び分けるように、書体も表現の幅を広げる素材の1つだと考えています。どんな書体でも全ての書籍にマッチすることはないので、たくさんある書体のなかから、これこそと思うものを使い、それぞれの書籍の内容、そして魅力を伝えていきたいです。

このところ筑紫書体をよく使います。先日、 友人のデザイナーから、「清水君は、最近気が狂ったように【筑紫書体】を使ってるよね」って、笑って言われるくらい。「でも、(そういう友人も)筑紫丸ゴシックばっかり使ってるじゃない」と言えるほど、よく使います。(清水さん)

フォントは調味料と同じ。得意な使い方を覚える

書体って、料理でいえば調味料みたいなものだと思います。こういう味にしたいと思った時に、調味料は欠かせないですよね。一度それを使って、その味作りを覚えると手放せないと思います。それって書体にも当てはまって、やっぱりこの書体じゃないとこの感じは出せないっていうのがデザイナーごとにあると思います。 

書体ってデザイナーをはじめ、その制作物ができるまでに携わった人々、購入したユーザーなどから、読み易いとか、目立つとか、意図が伝わるとか、無意識の内にジャッジされながら使われていると思うんです。 筑紫書体をはじめ、よく目にするフォントって、そうやっていろんな人に自然と認められて、受け入れられているんだと思います。 

「LETS」を導入しようかどうか迷ってる人って少なくないと思うんです。展示会でフォントを扱えるようにプロモーションされているのも知っていますが、もっと「LETS」が身近に感じられる環境があるといいですね。 例えば、デザインを勉強中の学生に「LETS」を使って課題や自主制作してもらうんです。フォントの使い方や、使い分けの楽しさを、現場に出る前の早い段階から学ぶ。その結果、書体に意識を持ったデザイナーがもっと育っていくと思うんです。 今後、そういう機会をつくっていくのはいかがでしょう。(清水さん) 

「LETS」の書体デザインやシステムを、たくさんの人に知ってもらうことで、デザインと組版と印刷の現場で制約がなくなり、使いたい書体で仕事ができるとうれしいです。多くのデザイナーから使われているフォントメーカーだからこそ、デザインに興味を持っている誰もが、アプローチしやすいような環境を作っていってほしいです。(佐野さん)

「LETS」があるからこそできた表現

「LETS」を導入したことによって、書体選択の幅が増え、表現の幅も広がっています。最近では書籍の本文組みに、“王道な雰囲気で大人っぽさ”を感じる筑紫書体を使う機会が増えました。 

その他にも、「LETS」に入っているからこそできた書籍もあります。弊社のチーフデザイナー渡邉が担当したユーモアの溢れる本で、「LETS」のポップ系の書体を一冊にふんだんに使っています。
まるで「LETS」の書体見本のようだねとスタッフと話しています。(佐野さん)

書体やツールについての要望

最近、優しくてかわいらしい[明朝体]があればいいなと思う案件がありました。[明朝体]だとややきつい印象、[丸ゴシック体]だと柔らかすぎ。幅広い層に読んでもらいたいので、本文には[明朝体]を使いたい。 もしかしたら、明朝という概念を覆すものになるかもしれませんが、今までの知的で深みのある[明朝体]とは違い、易しい印象を持つ[明朝体]を使ってみたいです。これからも「こんな書体が欲しかった!」という書体をリリースしてくれることをフォントワークスさんに望んでいます!(佐野さん) 

<編集後記>
本文から装幀までの一連のデザインを、お二人の場合は、役割を分担して行なうということでした。お二人はご夫婦なのですが、作業を分担されていても、その書籍の雰囲気やイメージをバラバラにしない息の合ったお仕事は、さすがだなと感じました。 また、ご要望いただいた「LETS」の紹介方法については、もっとフォントワークスフォントを身近に感じてもらえるような書体情報の公開や、取り組みを行なって参りたいと思います。

企業情報

社名 有限会社マルプデザイン
所在地 東京都豊島区池袋3-18-5
TEL 03-5926-6772
FAX 03-3972-5015
URL http://malpu.com/

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